「スポルディングの分類」とはどのようなものか
医療器具の再処理(洗浄・消毒・滅菌)の必要レベルを決定するための指標。
解説
1968年にアール・スポルディング(Earle H. Spaulding)によって提唱された。3つのカテゴリーに分けられる。
分類 | 用途・定義 | 必要な処理レベル |
---|---|---|
クリティカル(Critical) | 無菌部位に挿入される器具(例:メス、注射針) | 滅菌 |
セミクリティカル(Semicritical) | 粘膜や損傷皮膚に接触する器具(例:内視鏡) | 高水準消毒 または 滅菌 |
ノンクリティカル(Noncritical) | 健常な皮膚にのみ接触する器具(例:血圧計、聴診器) | 中~低水準消毒 または 洗浄 |
処理レベル | 定義・効果 | 対象微生物 |
---|---|---|
滅菌(Sterilization) | すべての微生物(芽胞含む)を完全に死滅させる | 細菌、ウイルス、真菌、芽胞 |
高水準消毒(High-Level Disinfection) | ほぼすべての微生物を殺滅(芽胞を除く場合あり) | 病原体全般(芽胞は除く) |
中水準消毒(Intermediate-Level) | 一部の細菌芽胞や真菌、ウイルスを殺滅 | 結核菌、HBV、HIVなど |
低水準消毒(Low-Level) | 栄養型細菌、一部のウイルス・真菌を殺滅 | 皮膚常在菌など表在性微生物 |
医療器具 | 分類 | 処理方法 |
---|---|---|
メス、注射針 | クリティカル | 滅菌(高圧蒸気滅菌など) |
内視鏡 | セミクリティカル | 高水準消毒または滅菌 |
血圧計のカフ | ノンクリティカル | アルコールなどで拭き取り |
聴診器 | ノンクリティカル | 清拭または消毒 |
スポルディングの分類が重要な理由
医療現場では、多種多様な器具が使用されており、それぞれが患者の身体のどの部位に接触するかによって感染リスクが異なります。スポルディングの分類は、器具の使用状況に基づいて3つのカテゴリー(クリティカル・セミクリティカル・ノンクリティカル)に分け、どのレベルの消毒・滅菌処理が必要かを体系的に判断できる枠組みです。
この分類を活用することで、感染リスクを的確に予測し、それに応じた適切な再処理を実施できるようになります。結果として、感染対策の信頼性が高まり、患者と医療従事者の安全性を確保するうえでも大きな役割を果たします。
また、器具の性質や使用目的に応じた処理が明確になることで、過剰な滅菌処理を避けることができ、医療現場のコストや時間の節約にもつながります。さらに、スポルディングの分類は国際的にも広く受け入れられており、医療安全と感染対策の標準的な指針として世界中で活用されています。
最近のトピック・補足情報
現在では、スポルディングの分類に基づく運用が基本とされつつも、内視鏡などのセミクリティカル器具については、特に高い感染リスクを伴うため、実質的に「滅菌に準じた処理」が求められる場面も増えています。
さらに、新型コロナウイルス感染症の流行を契機として、非接触型医療機器の扱いや清拭の基準の見直しが世界的に議論されるようになりました。これにより、従来ノンクリティカルとされていた器具の再評価が行われるケースもあります。
日本国内においても、スポルディングの分類は厚生労働省の感染対策ガイドラインや医療施設向けの感染対策マニュアルにも取り入れられており、標準的な知識として医療従事者に周知されつつあります。
関連セミナー
『毎日の看護につながる!〜適切な使用に向けて〜 消毒薬の基礎』
執筆・監修に関してはこちら