日本看護協会 第10回「忘れられない看護エピソード」~『その声は』~

日本看護協会から第10回「忘れられない看護エピソード」の審査結果の発表があり、受賞作品の紹介がありました。

どれも心温まる作品となっており、その一部を皆さんと共有できたらと思います。

・最優秀賞(看護職部門)

『その声は』

【佐賀県鳥栖市】 43歳

「病院まで遠いよ。最期の会話になるかもしれない」「そんなことない。間に合う」と小声で言い争う男女の声が、師走の電車に揺られていた私の耳に入ってきた。聞き耳を立てるつもりはなかったが、切羽詰まった男女のやり取りと内容が気になった。

 

夫婦と思しき2人は、携帯電話をのぞき込み会話を続けていた。「電話したほうが良いよ」「いや、人の迷惑になる。駅に着いてからでいい」。他の乗客も気になるのか、2人に視線を向けていた。「意識なくても耳は聞こえるって。掛けなさいよ。お義父さん、待っているよ」「電車内だから掛けられないよ」。お互いに感情が高ぶり、少しずつ声が大きくなっていた。携帯電話の向こう側で、息を引き取ろうとしている父親がいて、臨終の場に間に合わない状況にあるということは、その場の誰しもが理解できた。

 

緩和ケア病棟に勤務する私にとっては、静観できない場面であった。病棟では家族から患者への最期の声掛けを、後悔がないように気持ちを伝えることを促してきた。躊躇いながらも席を立ち、2人に近付こうかとした時、「電話、掛けたほうがいいですよ」と2人の正面に座っていた女性が声を掛けた。近くにいた乗客も見守りながら頷いている。背中を押されたように男性が電話を掛ける。

「お袋、親父の耳元に携帯電話を置いてくれ」。電車内に声が響く。「親父、親父が一生懸命働いてくれたから、俺たちは腹一杯に飯が食えて、少しもひもじい思いしなかったよ。心配しないでいいから。本当に、本当にありがとう」。静まり返る電車内で嗚咽を懸命に抑える男性。苦情を言う者などいもしなかった。

 

2人は何度も乗客に頭を下げながら、目的の駅で降りていった。電車内に師走の喧騒と冷気が入り込む。しかし、言葉にはできない胸の温かさを私は感じていた。あの場にいた誰もが、まさに「看護」をしていた。そして誰もが胸の温かさと同様に感じていただろう、「その声は届いている」と。

 

(引用:日本看護協会HP 第10回「忘れられない看護エピソード」より

 

看護師だけではなく、その場に居合わせた誰もが『看護』をしており、その夫婦に寄り添っていたことを感じられ、心温まるエピソードですね。

受賞作品の特別連続ドラマの制作・放送も決定したそうで、そちらの方も楽しみですね。

 


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