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看護師のキャリア 『訪問看護ステーション管理者に聞いてみた』 開設編


看護師のキャリアパスについて、臨床から離れ研究職に就かれた方や、資格を取得し仕事に活かされている方などにお話をお聞き、看護師のキャリアパスシリーズとして、紹介させていただきます。
今回は、訪問看護ステーションの立ち上げに関わった看護師の方にお話を伺いました。


目次
 1.開設にあたっての準備
  ~資金調達
  ~事務所の確保
  ~人員の確保
  ~移動手段の選択
  ~看護記録の準備
~契約書類の準備~
  ~指定申請を行うための書類一覧~
 2.その他、重要なこと
  ~社名・事業所名・キャッチコピー・ロゴの重要性~
  ~営業活動~
 

  


訪問看護を開設して、独立したいと考える人も増えているのではないでしょうか。
今回は、訪問看護ステーションの立ち上げに関わった看護師の方にお話を伺い、訪問看護開設にあたりやるべきこととして、ポイントをお話頂きました。

 
1.開設にあたっての準備
-資金調達-
・運営維持費

―開設にあたり、どれくらいの費用が必要になるのですか?

ざっと見積もって、2000万円くらいは必要になるのではないかと思われます。

もちろん全てを自己資金で賄う必要はないかと思いますが、日本政策金融公庫などで資金の融資を受け、合算してそれくらいの額かと思われます。

自己資金としては、少なくとも500万円くらいは必要なのではないかと思われます。

自由診療の枠でやるのであればまた違ってくるかとは思われますが、診療報酬の中で行うことが一般的だと思いますので、開設してすぐに利用者様がいたとしても、その訪問看護の報酬が実際に入ってくるのは、2か月先になります。

その間も人件費や事務所の家賃、光熱費、雑費などの経費はかかっていますので、少なく見積もっても月に約170~200万円くらいの費用はランニングコストとして掛かるのではないでしょうか。(費用の例は下記参照。)
 
※月々の費用

項目 費用
人件費 150万円(看護師50万(保険料等含む)×3人)
事務所家賃 15万円~
雑費(事務用品など) 3万円~
通信費 8700円
(固定電話1500円+電話料金2000円×3人分+サーバー利用費1200円など)
光熱費 2万円

 

 
・開設にあたっての初期費用

その他にも開設にあたって、初期費用が掛かってきます。それが150~200万円くらいはすると思われます。(詳細は下記参照)

また電子カルテの導入をするようであれば別途費用が必要になります。
 
※開設にあたり初期費用

項目 費用
法人設立費用 20万円
事務所費用 60万円(10万円の家賃×6カ月分の保証金)
東京事務所家賃相場
30㎡10万円~
40㎡15万円~
備品 椅子2万円(3脚)
机2万円(2台)
ロッカー3万円
パソコン20万円
コピー機2万円
電話機1万円
ユニフォーム4.5万円(3人分)
医療備品6万円体温計・血圧計・パルスオキシメーター2万×3
血圧計
パルスオキシメーター
電動自転車30万円(10万円×3)
ホームページ開設費用 30万円

 

日本政策金融公庫などからの融資も1~3か月くらいかかるので、その間初期費用とランニングコストを賄えるだけの自己資金が必要となってくるかと思われます。

そのため先ほど説明させてもらった、自己資金500万円でも融資が届く前にそこを突いてしまうかもしれません。

最小限必要なものに絞って投資していくことが必要でしょう。

これは私の経験上のお話になりますが、開設当初は、恐らく利用者様は少なく、営業活動が重要になってくると思います。その際にホームページやパンフレットなどの広告があると利用者獲得は早くなるのではないかと思われますので、ホームページ開設費用は大きな出費ですが、早いうちに用意しておくことをお勧めします。

またホームページは、もしご自身に作る知識や技術があるようであれば、必要な費用は、サーバー利用費のみで大きく費用を抑えることができます。

ただ、やはりプロが作るものとの差は、見た目に生じてくるかと思われますので、初めは自作をしても、どこかでプロの方に依頼して開発することが良いと思われます。

移動手段は、雨風をあまり考慮しなくてよい車を選択したくなりますが、もし都内でやるのであれば、事務所および訪問先での駐車場の確保という問題が生じてきます。

最近はリースやカーシェアなどがありますので、そちらを検討することも良いアイディアかもしれませんが、小回りが利く電動自転車がいいのではないかと思います。

但し、地域によって大きく状況は異なるため、開設前に移動手段もよく検討しておく必要があるでしょう。

電子カルテも、利用者様の数が少なく、あまり費用がかけられないようであれば、初めは紙での記録も致し方ないと思われます。

しかし、利用者様が増えてくるにあたり、記録の時間の短縮化や、カンファレンス参加時にすぐに記録を見ながら関係機関の方々に情報共有ができるといった大きなメリットもありますので、費用面での問題が解決できるようであれば、早急に導入することをお勧めします。

もう一つ、初期費用の削減のコツとしては、開設のための準備を前職の在職中に行っておくことです。そうすれば、準備期の人件費や家賃などの固定費は削減することができます。
 
-事務所の確保-

当然ながら、拠点となる事務所の確保が必要になります。

事務所を構える場所としては、土地勘がある程度わかる場所に拠点を構える方がいいでしょう。

病院・クリニック、ケアマネさんなどの地元とのネットワークが使えることで、利用者様の依頼・紹介も来やすくなるので、重要かと思われます。

土地勘のある場所で、開設することのデメリットとしては、もし自宅が近いようであれば、利用者様とプライベートの時間でも会う可能性が出てくることかと思われます。

その点、全く土地勘がない場所で開設すると、そのようなことはないでしょう。

しかし土地勘がない場所だと、道がわからないだけでなく、過去のネットワークが使えないことや、コミュニティにも入りにくい、地域の特性・ルールなどをつかむまでの時間がかかるといったようなデメリットがあると思います。

これらの時間がかかることによって、利用者獲得に時間を要し、事務所の経営にも影響が強く出てくるかと思われます。

事務所は、要件がありますので、それが満たせる物件を探す必要があります。

設備基準として設けられているものとしてはいくつかあり、その内の一つとして事務所の中に、プライバシーを守れるよう、仕切られた面談室の確保が必要になります。

その中には、数人が座れる椅子や机の準備も必要となってきます。

またスタッフの更衣室や備品を保管しておくスペースの確保も必要となってきます。

微々たるスペースにはなると思いますが、消毒剤や石鹸などの設置ができることも条件としては必要となってきます。

これらの条件を満たし、ある程度の土地勘がある地域に事務所を構える方がいいでしょう。

初めは、資金繰りも大変かと思われます。

事務所タイプのものではなく、アパート・マンションタイプのもので、費用を抑えたものを探す方がいいのではないかと思われます。

事務所の大きさとしては、40㎡くらいの大きさがあると良いのではないかと思います。

またもし事務所を大きくしていき、看護師さんをより多く集めていく必要があると考えるのであれば、事務所へのアクセスも重要になってくると思われます。

できれば、駅から近い1階や2階など低層階がおすすめです。

理由としては、毎日行う、物品のバッグや自転車のバッテリー、雨具などの荷物を持ち運びなどがスムーズに行えることが一つです。

もう一つは、家賃も低層階の方が安く、節約になるかと思われます。

デメリットとしては、当然ながらセキュリティの部分になるかと思われます。

その他に考えるべき点としては、移動手段別による駐車・駐輪スペースの確保も重要になります。

看護師さんの人数が増えてきたときに、自転車・自動車などの数を増やせるか否か、建物のスペースが借りられない場合には、事務所周囲に確保できるスペースがあるかなども確認しておく必要があるでしょう。

設備基準に関して厚生労働省のHPより

1.指定訪問看護ステーションには、事業の運営に必要な面積を有する専用の事務室を設ける必要がある。ただし、当該指定訪問看護ステーションが介護保険法による指定を受けている指定訪問看護ステーションである場合には、両者で共有することは差し支えない。また、当該指定訪問看護ステーションが、他の事業の事業所を兼ねる場合には、必要な広さの専用の区画を設けることで差し支えないものとする。なお、この場合に、区分されていなくても業務に支障がないときは、指定訪問看護の事業を行うための区画が明確に特定されていれば足りるものである。

事務室については、利用申込みの受付、相談等に対応するのに適切なスペースを確保するものとする。

2.指定訪問看護に必要な設備及び備品等を確保する必要がある。特に、感染症予防に必要な設備等に配慮する必要がある。ただし、他の事業所、施設等と同一敷地内にある場合であって、指定訪問看護の事業又は当該他の事業所、施設等の運営に支障がない場合は、当該他の事業所、施設等に備え付けられた設備及び備品等を使用することができるものとする。

(引用元: 厚生省ホームページ)

 
-人員の確保-

―職員の数はどの程度必要なのですか?

訪問看護開設にあたって「人員基準」というものがあり、看護師の人数は最低3人は必要となってきます。

厳密にいえば、訪問看護ステーションの設立要件として、人員基準が設けられており、保健師、看護師または准看護師が常勤換算にて2.5名以上の確保が必要という条件があります。

管理者の方は、常勤換算は1名と数えられず、0.5名との換算になります。

また非常勤やパートなどの方も換算に含めることはできますが、勤務時間により数値は異なりますが、1名には数えられず、0.5や0.7といった形に換算されます。

また常勤換算のうち最低1名は常勤でないといけないという条件がありますので、注意が必要です。

この2.5名以上という基準を下回ると訪問看護の運営ができなくなるため、一人の方が退職されたり、体調不良で休まれても運営に支障ができないようにするため、常勤換算3.5名を確保することをお勧めします。

もし24時間体制をとるのであれば、5人以下だとかなり大変になるかと思います。

人数の確保ができるようになってから、24時間体制をとるようにすることをお勧めします。
 
-移動手段の選択-

―訪問看護において、移動手段はどのようなものになるのでしょうか?

各事業所によって異なりますが、訪問看護ステーションの主な移動手段となっているものは、『自転車』、『車』、『バイク』になるかと思います。

先ほども少しお話させていただきましたが、都内のような駐車場のスペースがあまり確保が難しいような場所であれば、電動自転車での移動をお勧めします。

小回りが利き、駐輪スペースの確保に関しても車程難しいものにはならないかと思われます。費用の面でも一番安価に済むことも大きなメリットでしょう。

デメリットとしては、雨風の影響を強く受けるということや、坂道が多い地域や長距離の移動は向いていないという点でしょう。

移動距離を長くても5~6㎞と考えておくと良いでしょう。それよりも長くなると、移動時間も優に30分を超えてくるので、スタッフの疲労感や費用対効果などを考慮してもお勧めできません。

車は、言うまでもなく、維持管理費が高くなります。ただし、長距離の移動は優れているため、費用的な余裕が出てきたときに、主な移動手段と合わせて持つということは検討してもいいかもしれません。

バイクに関しては、自転車と同様小回りが利きますが、地域によっては自転車に劣るということも生じてくるかと思われます。

繰り返しにはなるかと思いますが、移動手段の選択は、地域の特性に合わせて選択することが良いと思います。
 
-看護記録の準備-

―訪問看護ステーションでは、電子カルテは普及しているのでしょうか?

電子カルテの導入を行っているところは増えてきていると思われます。

但し、先ほども述べたように電子カルテの導入を検討するのであれば、先に説明させていただいた費用の他に別途費用が必要となってきます。

電子カルテの導入のメリットは、当然ながら医療スタッフの記録の時間の短縮化が図られること以外に、各医療機関や地域の関係機関とのカンファレンスの場などにおいて、普段の様子を記録からすぐに支援者の人々に伝えることができることや、スタッフ同士の記録の共有のしやすさなどがあるかと思われます。

しかし、開設当初は恐らく利用者様も少ないと思われますし、費用的な負担が大きい時期かと思われます。

費用が許すのであれば早急に導入することをお勧めしますが、費用に余裕がなく、利用者様もまだ少ないということであれば、利用者様の増加の時期に合わせて導入していくことをお勧めします。
 
-指定前研修への参加-

その他に重要なこととしては、訪問看護の開設にあたり、管理者や法人の代表者が指定前研修を受講する必要があります。行政によって異なるため、確認が必要になります。

この研修の中で、申請に必要な書類の説明や、契約書などの重要書類の準備など詳しい説明があるので、詳細は研修の中で確認する方が良いでしょう。

新規事業者指定手続き・研修について〔東京都〕
 
-契約書類の準備-

病院とは違い、診療報酬の範囲で訪問看護を行うとは言え、利用者様とは個人との契約が必要になります。

必要となると考えられる書類としては、『利用契約書』『重要事項説明書』『個人情報の取り扱い基準』といった内容になるでしょう。

訪問看護では、利用者様のご自宅に看護師がお邪魔します。

そこでは病院ではない家財の破損や、看護サービス以外のサービスの要求などのトラブルもあります。

そういったものから訪問する看護師を守る意味でも、こういった書類の準備が重要になります。

東京都では、指定前研修の際に、ひな型があるためそれを参考に作るようにアナウンスがあると思いますので、参考にしても良いのではないでしょうか。

※指定申請を行うための書類

地域により若干の違いはあるため確認が必要

1.指定申請書

2.訪問看護・介護予防訪問看護事業者の指定に係る記載事項

3.申請者の登記簿謄本(発行後3カ月以内の原本)

4.定款写し(原本証明が必要)

5.従業者の勤務体制及び勤務形態一覧表

6.就業規則の写し、組織体制図、資格証の写し、雇用契約書の写し又は誓約文

7.管理者の資格証明書の写し(原本証明が必要)・経歴書

8.事業所の写真(外観・内部の様子がわかるもの)

9.事業所の平面図

10.運営規程(料金表等含む)

11.事業所の案内地図

12.利用者からの苦情を処理するために講ずる措置の概要

13.衛生管理上の処置について

14.資産の状況を証明する書類(決算書、資本金支払証明書、通帳写し等)(原本証明必要)

15.損害保険加入を証明する書類

16.欠格事由に該当していない旨の誓約書

17.介護給付費算定に係る体制等に関する届出書

参考

訪問看護・介護予防訪問看護事業所の指定申請に係る添付書類一覧(東京都)
 

 
2.その他、重要なこと
-社名・事業所名・キャッチコピー・ロゴの重要性-

―その他にも開設にあたって大切なことなどはありますか?

営業という部分にも関係しますが、社名や事業所名、キャッチコピーなども重要になってくるかと思います。

当然ながら、開設にあたっての『想い』があるかと思います、それをこれらの部分に盛り込み、利用者様や関係機関の方々に理解してもらうことができる、表現の場でもありますので、時間をかけて作ることは重要かと思います。
 
-営業活動-

  • ―訪問看護では、利用者様の獲得のため営業活動も必要だと聞きますが、実際にどのように行うものなのでしょうか?
  • 顔見知りになるという意味では、地道に一つずつケアマネージャーさんの事務所や、クリニックなど関係機関となりうる所に営業して回ることも必要だと思います。
  • 地道にパンフレットなどを配り歩くメリットとしては、自分たちの特色を理解してもらう、人柄を理解してもらうといったところがあるかと思います。
  • 但し、飛び込みで来た営業で自分たちのことを100%理解してもらうということは難しいかと思いますので、地域のコミュニティに参加して自分たちを知ってもらうという営業活動も必要です。
  • しかし、地道な努力だけではなく、同時にホームページなどを利用して素早く広域に自分たちのことを知ってもらうように営業を行うも重要になってくるかと思います。
  • 自分たちがどのような組織で、どのような看護師がいるのかということを周囲にアピールしていくことが必要になってきます。