毎日使う、コンタクトレンズ。コンタクトレンズを適切に使用しないことで、眼障害を引き起こし、長期コンタクトレンズが使用できなくなったり、視力の低下を招く可能性や、最悪の場合、失明することもなくはありません。
国内の使用者数は、2010年時点で、2000万人を超えたともいわれています。日本眼科医会では、コンタクトレンズ使用者の7~10%に眼障害が発生していると推察してとも言われています。
コンタクトレンズは非常に便利なものですが、目に直接着けるため、眼球への影響も大きく、自分に合ったレンズの使用や、適切なレンズのケアを行うことがとても大切になります。
今回は、コンタクトレンズの特徴や管理方法についてご紹介させていただきます。
1.目に重要な酸素
~角膜の酸素の取り込み~
~コンタクトレンズと角膜の関係~
2.コンタクトレンズの種類
~ハードコンタクトレンズ~
~ソフトコンタクトレンズ~
3.大切なコンタクトレンズの情報
~BC(ベースカーブ)~
~酸素透過性(酸素透過係数(Dk)と酸素透過率(Dk/L))~
~素材~
~含水率~
~コンタクトレンズでの実験~
~イオン性・非イオン性~
4.コンタクトレンズのケア
~入浴前にはコンタクトレンズは外す~
~レンズケースもケアが必要~
~擦り洗いをしっかりと~
5.定期的な眼科受診
1.目に重要な酸素
角膜の酸素の取り込み
コンタクトレンズは、いわゆる“黒目”と呼ばれる『角膜(黒目)』に装着します。
角膜は、酸素を必要としますが、角膜自体には血管がなく、無血管組織と呼ばれています。
角膜の酸素供給のほとんどは、大気中の酸素を触れ合うことで供給されていますが、角膜の表面を覆っている“涙液(涙:なみだ)”を介しても、一部酸素供給を受けています。
涙液は、瞬きのたびに角膜表面で入れ替わりますが、パソコンやスマホなどの長時間の使用は、瞬きの回数が少なくなることがあり、涙液の蒸発を招く可能性があります。
また、エアコンなどの使用でも、涙液が蒸発することがあり、酸素供給の一部を阻害してしまう可能性があります。
コンタクトレンズと角膜の関係
コンタクトレンズは、角膜(黒目)に装着します。
そのため裸眼の時とは異なり、レンズが角膜を覆ってしまうため、大気中の酸素と直接触れる部分が少なくなります。
また涙液に関しても、裸眼の時は、角膜表面が直接涙液と接することができますが、コンタクトレンズを装着することによって、角膜とコンタクトレンズの間に入る涙液分しか直接触れることが出来なくなってしまい、裸眼の時と比べると角膜と涙液が触れる量が少なくなってしまいます。
角膜(黒目)と瞼の間に涙液を貯めておく部分があります。その部分の涙液が瞬きのたびに、眼球の表面で入れ替わることで乾燥するのを防いでいます。しかし、コンタクトレンズの種類によっては、角膜全体を覆うものもあるため、涙液がたまっている部分をレンズが占拠してしまい、涙液が少なくなってしまいます。それにより目がゴロゴロする、乾くといった症状が生じてくることがあります。
2.コンタクトレンズの種類
コンタクトレンズの種類には2種類あります。それぞれの特徴は下記のとおりです。
ハードコンタクトレンズ
- ハードコンタクトレンズは、ソフトコンタクトレンズに比べると小さく、角膜をすべて覆わないため、角膜へのソフトレンズに比べると酸素の供給率が高いため、角膜への負担は少ないです。
- レンズの寿命は2~3年となっており、使用後のケアが必要になります。
- レンズは、名前の通りソフトレンズより硬いため慣れるまでに時間がかかります。しかし、硬いレンズのため矯正力は高くなります。
- 異物の混入に気付きやすいため、目のトラブルが生じたときに早期に対応できるため、症状が軽く済む可能性があります。
ソフトコンタクトレンズ
- ソフトコンタクトレンズは、水分に富んでおり、柔らかいため初めて使う人でも異物感が少なく使用できる可能性があります。
- レンズの寿命は、使用するレンズによって異なり、1Day、2Week、1MONTH、3MONTHなどの使用期間別になっています。1Dayのレンズの場合は、使用後のケアが必要ありませんが、使用期間が2Week以上のレンズの場合は、ハードコンタクトレンズ同様、ケアが必要となってきます。
- 費用に関しては、メガネの併用など使用方法によりますが、長期的にみるとハードコンタクトレンズの方が抑えられることが考えられます。
- 角膜全体をレンズが覆うため、角膜への酸素の供給はハードコンタクトレンズと比べると悪くなりますが、柔らかく眼球にフィットするため、スポーツなどを行ってもずれにくいという利点があります。
- 眼のトラブルに関しては、ハードコンタクトレンズより気づきにくいことがあり、症状が進行してから受診に至るということも珍しくありません。そのため、コンタクトレンズ適切な管理・選択、定期的な受診といったケアが重要となってきます。
3.大切なコンタクトレンズの情報
先述した通り、角膜(黒目)は、大気中の酸素と触れ合うことと、涙液(涙)を介して酸素供給を受けています。そのため、コンタクトレンズは部分的もしくは全体的に角膜を覆ってしまうため、酸素供給が阻害されてしまいます。
そのためレンズ自体がどれだけ酸素を透過(通過)させるかといった機能性が重要になってきます。
また、レンズの曲面の程度により、角膜への影響が変わってきたり、ずれやすくなるため、異物混入時に角膜を傷つけやすくなるといったこともあります。
その他にも、素材に対するアレルギー体質があり、不快症状が生じてくることや、アレルギー性結膜炎につながるといったトラブルなどにも、コンタクトレンズ自体の性質が大きく影響してくるため、自分の眼球に合ったコンタクトレンズを選択することはとても大切になってきます。
そのため自分のコンタクトレンズの性能を理解し、自分に合った物を使用できるように、把握するようにしましょう。ここではコンタクトレンズの性能を示す情報を解説させていただきます。
・BC(ベースカーブ)
BC(ベースカーブ)とは、コンタクトレンズのカーブしている球体部分の程度を示す指標で、眼球に実際に接触する部分のことです。
ソフトコンタクトレンズのBCは、日本人では平均BCは8.6~8.7㎜とされています。自分の眼球に合うBCがどの程度のレンズなのかは、眼科で測定し確認することが大切です。
もし、BCが自分の眼球に合っていない場合には、以下のような自覚症状が現れることがありますので、参考にしてください。
また症状がみられる場合には、使用しているレンズが合っていない可能性が高いため、眼科で適切なBCを測定してもらい、レンズを見直すことをお勧めします。
▶BCが大きい
BCが大きいと、眼球に合わず、眼球を動かした際(視点を変えた際)にレンズにズレが生じ、視野の周辺がぼやけるといった自覚症状が出現します。
▶BCが小さい
逆にBCが小さいと、ずれにくくはなりますが、眼球がレンズによって締め付けられるためコンタクトレンズが張り付いてしまいます。その結果、涙がコンタクトレンズと角膜の間に入っていきません。レンズを付ける角膜は、涙により酸素を受け取っているため、その涙が入らないことにより、酸素が不足し、角膜を傷つけてしまうといった角膜障害が生じる可能性があります。
自覚症状としては、充血・視力低下・目がゴロゴロするといった違和感を自覚することが考えられます。
・酸素透過性(酸素透過係数(Dk)と酸素透過率(Dk/L))
酸素透過係数(Dk)とは、レンズの素材がどの程度酸素を通す力があるかを示す値になります。
ハードコンタクトレンズ・ソフトコンタクトレンズともに、レンズ全体がどの程度酸素を通す力があるのかという指標はありますが、ハードコンタクトレンズは角膜全体を覆うことがなく、レンズと角膜の間の涙液(涙)が瞬目運動(瞬き)とともに入れ替わりやすいです。
それに対してソフトコンタクトレンズは、角膜全体を覆ってしまうことや、涙液(涙)が溜まっている部分を占拠してしまい、角膜と触れる涙液の量が少なくなってしまうため、涙液を介しての酸素が届きにくくなってしまいます。そのため、レンズ自体がどれだけ酸素を通し、角膜と酸素を接触させることが出来るかという指標は、より大切な指標になります。
レンズが酸素を通す力を示す酸素透過性は、レンズの厚みや素材により変化します。
『酸素透過係数(Dk)』という値を、『レンズの厚み(L)』で割った、『酸素透過率(Dk/L値またはDk/t値)』という値で示されます。
コンタクトレンズの取扱説明書や、企業の製品情報などには記載されていることが多いですが、パッケージ(箱)には明記されていないことが多いようです。
角膜が正常の厚さを維持するために必要な角膜表面酸素分圧は20〜30mmHgといわれています。
この値は、ソフトコンタクトレンズの酸素透過率(Dk/L値)が141-191程度あれば、開眼時には角膜の酸素分圧を保つことができるとされています。
しかし、閉眼時(目を閉じている時)には、裸眼であっても角膜の酸素分圧が1/3程度低下すると言われているため、コンタクトレンズを装着しながら、眠ってしまうと、角膜の酸素分圧は更に低下してしまい、角膜の酸素不足が生じてくる可能性があります。
角膜の酸素不足が生じることにより、角膜肥厚※1や角膜新生血管※2などが生じてくることがあります。
※1 角膜肥厚:裸眼で閉眼し、入眠している際にも生じるもので、起床後、開眼することで角膜が酸素を取り込み、徐々に元の厚みに戻っていきます。しかし、コンタクトレンズを使用しながら入眠することで、角膜の酸素分圧が低下し、酸素不足となることで、角膜の厚みが戻るまで通常よりも時間が長くかかってしまいます。肥厚している時間が長くなると角膜上皮細胞が剥がれ落ち、細菌が付着しやすくなる危険性があります。
角膜上皮までの損傷を「点状表層角膜症」、基底膜までの損傷を「角膜びらん」、角膜実質まで及ぶ損傷を「角膜潰瘍」といい、角膜潰瘍となった部分は、場合によっては、完全に治癒はせず、白く濁り、視力が低下してしまうことがあります。
※2 角膜新生血管:角膜の酸素不足を補うために、周囲から血管が角膜へ向かい伸びてきてしまう症状のことです。症状が初期の場合は、治療をすることで症状の改善が見られますが、症状が重い場合には、完全には治癒せず、残ってしまう場合があります。
治療としては、できるだけコンタクトレンズは使用せず、眼鏡に変更することが推奨されますが、コンタクトレンズを使用する場合には、ハードコンタクトレンズへの変更や、酸素透過性の高いコンタクトレンズへ変更し、経過を見ていくことも可能とされています。症状が見られた際には、早期に眼科へ受診するようにしましょう。
・素材
種類 | 素材 | 特徴 |
ハードコンタクトレンズ | 含シリコンメタクリレート | 酸素の透過性が非常に良い。 |
含フッ素メタクリレート | 酸素透過性が良い。
撥油性で汚れにくい。 |
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ソフトコンタクトレンズ | ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)(従来型レンズ) | メリット:水分を多く含み柔らかい。
デメリット:水分を介して、酸素が通過するため、長時間の使用により水分が蒸発することで、酸素透過性が低下しやすいため、長時間の装用では乾燥感が出現してくることがある。 |
シリコーンハイドロゲル | メリット:水分を介して酸素が通過するだけでなく、直接レンズを酸素が通過することができるため、高い酸素透過性を持っている。そのため長時間の使用によっても酸素不足になりにくい。
デメリット:素材特有の固さがある。 値段が従来素材に比べると値段が高めである。 |
・含水率
レンズの含む水分量を示す指標です。
▶高含水(含水率50%以上)
柔らかく、眼球にフィットしやすい特徴があります。酸素も届きやすくなりますが、水分の蒸発が速いため、長時間の装用では乾燥感が出現してくることがあります。またレンズが柔らかいため、装着の際に形状を保ちにくさがあるという特徴もあります。
▶低含水(50%未満)
高含水のものと比べると、眼球への酸素は届きにくくなりますが、水分の蒸発が遅いため、長時間の使用でも潤いが続くという特徴があります。装着時に形状を保ちやすいため、装着がしやすいのも特徴の一つです。
コンタクトレンズで実験
ソフトコンタクトレンズを素材別に並べ、室温下でどのような変化が生じるか観察を行いました。
結果としては、高含水である従来素材レンズの方が乾燥する速度が早いことが考えられます。
また、低含水であるシリコンハイドロゲルレンズの方が輪郭を綺麗に保つことができています。
今回の実験では、実際に目に装用して、乾燥の程度を確認したものではありませんが、レンズ素材や含水率が違うことで乾燥する程度が異なってくることが考えられます。
・イオン性・非イオン性
汚れの付着しやすさに影響する指標になります。
▶イオン性
レンズがマイナスイオンを帯びているため、プラスイオンのタンパク質の汚れを引き寄せやすく、汚れが付着しやすいとされています。その反面、脂質は付着しにくい特徴があります。
▶非イオン性
脂質は付着しやすいですが、タンパク質は付着しにくいため、レンズが汚れにくいとされています。
※タンパク質
体内から生じる汚れで、ゴロゴロ感、異物感の原因となります。角膜(黒目の部分)を傷つけたり、アレルギー性の結膜炎を引き起こす原因にもなります。
※脂質
体内から分泌される汚れの他に、化粧品や整髪料などの油分が原因で生じます。レンズに付着することで、曇らせるだけでなく、放置しておくと細菌やカビなどの繁殖を招き、目の感染症を引き起こす恐れもあります。
※体外からの汚れ
化粧品、ハンドクリーム、整髪料のみではなく、汗、ほこり、たばこの煙なども汚れの原因となります。
2.コンタクトレンズのケア
コンタクトレンズを使用する上では、レンズの選択のみならず、使用中の眼のトラブルを避けるためにもレンズの適切なケアはとても大切です。
先述している通り、寝る前に外すのは目の健康のために必須です。
それ以外にも、レンズのケアをする上で注意すべき点について解説します。
・入浴前にはコンタクトレンズは外す
コンタクトレンズを使用しているとやってしまいがちなのが、レンズを装着したまま入浴してしまうことではないでしょうか?
特に女性の方が、お化粧を落とす際には注意が必要です。
お化粧を落とす際に使用するクレンジグオイルで乳化した化粧品が、眼の中に混入することで、コンタクトレンズに付着してしまうことがあります。そうするとレンズの曇りの原因になってしまうことがあります。
また、アイメイクなど、まつ毛の根元まで付着する化粧品などは、十分に落としたつもりでも残っていることがあります。
十分に落とそうとすると、微量の水道水が目の中に侵入してくるため、コンタクトレンズが水道水に接触することとなります。
水道水には、アカントアメーバなどの感染症を引き起こす菌がいることがあり、レンズに付着した微量の菌がレンズケース内で繁殖し、再度装着した際に感染を起こしてしまう可能性があります。
そのため、入浴前にはコンタクトレンズを外すようにしましょう。
・レンズケースもケアが必要
意外と忘れがちなのが、レンズケースを清潔に保つことではないでしょうか。
先述した通り、レンズに付着した菌がレンズケースの中で繁殖し、次に装着した際に眼球で感染を起こすことがしばしばみられます。
一見すると、レンズに入れる洗浄液によって菌も殺菌されているように思われますが、眼球に影響の出ない程度の殺菌力しかないため、洗浄液の殺菌能力は、十分とまでは言えません。
そのため、原因菌が含まれる水道水にレンズが触れることを避けることや、レンズに付着した汚れをしっかりと除去し、レンズを清潔に保つことで菌の増殖を防ぐことが大切になります。
また、レンズケース内に原因菌が付着している可能性もありますので、定期的なレンズケースの消毒と乾燥が必要になります。
レンズケースは、完全に乾燥するまでには24時間ほどは掛かると考えておく方が良いでしょう。
そのため、レンズケースは2つ用意し、交互に使用することと、可能であれば定期的に清潔なものに交換しましょう。
・擦り洗いをしっかりと
ソフトコンタクトレンズの消毒液に多目的用剤(MPS)、過酸化水素剤、ヨード剤の3種類がありますが、浸け置きだけでは十分に汚れや菌を除去できないこともあります。そのため、レンズ表面に付着した汚れや菌などを、生理食塩水での擦り洗いにより、物理的に除去することもレンズを清潔に保つための大切な要因となります。
3.定期的な眼科受診
コンタクトレンズは薬事法において、透析器や人工呼吸器などと同じ、高度管理医療機器と呼ばれており、副作用・機能障害を生じた場合の人体へのリスクが高いものとされています。
これまでに説明してきたように、大変便利なものではありますが、トラブルが生じた際の目への影響が大きなものです。適切な管理と定期的な受診により管理を行うことを強くお勧めします。
また、眼科では診察によるトラブルの早期発見・治療のみならず、コンタクトレンズの特性を理解した医療者が、それぞれの方の目に合ったコンタクトレンズを選択してくれるため、ゴロゴロする・目が痛い・下の方を見たときにぼやけるなどといった、不快症状を解消・軽減することができる可能性があります。
加えて、眼科によってはコンタクトレンズのお試しをしながら自分に合ったものを選ぶことができるところもあり、自分に合ったコンタクトレンズを選びやすい環境になっています。
年齢の変化によっても、視力の変化や涙液の量の減少などが変化するため、長年の使用により自分の目にあったコンタクトレンズになっていない可能性もあります。
またコンタクトレンズも年々進化しており、自分が今使っているものよりももっと自分に合ったコンタクトレンズに出会うこともできるかもしれません。
自分に合うコンタクトレンズを、安全に使用できるように定期的な眼科受診をお勧めします。
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